もともと「断捨離」という言葉は、クラター・コンサルタントのやましたひでこさんが、ヨガの言葉を下敷きとして提唱し始めた言葉です。クラターとは英語の「clutter(ガラクタ)」を指し、これを生活の中から適切に取り除くための手伝いをするのがクラター・コンサルタントの仕事だとやましたさんは言います。
今回は断捨離の元祖であるやましたさんの著書『人生を変える断捨離』をもとに、「捨てられない人」の特徴や、なかなか「捨てる」という決意ができない場合の対処法などを交えながら、やましたひでこ流の「捨てる」極意を紹介します。
「捨てられない人」の3つの特徴
『人生を変える断捨離』で紹介されている「捨てられない人」の特徴を3点にまとめると、以下のようになります。
・「過去・未来」に引きずられている
・「他人・世間」に振り回されている
・「モノ」に囚われている
これらがいったいどういうことなのか、一つずつ解説していきましょう。
「過去・未来」に引きずられている
「当時付き合っていた人の手紙が捨てられない」
「○○を置いておかないといざという時に不安だから捨てられない」
今目の前にある現実から目を背け、かつての幸せだった頃に執着してしまっていると、つい昔のアルバムや記念の品が捨てられなくなってしまいます。あるいは起こりそうもない「万が一のため」に、トイレットペーパーや飲料水などを過剰にストックしてしまうのも、捨てられない人の大きな特徴です。
「他人・世間」に振り回されている
無駄なモノで自分の生活空間が溢れかえってしまった場合、まずできるのは捨てることしかありません。
しかしまだ使えるモノや、買ったはいいもののほとんど使っていないモノを捨てるとなると、周囲から「片付けられない人」「モノを粗末にする人」というレッテルを貼られないかと不安になる人もいるのではないでしょうか。やましたさんは特に女性や、完璧主義の人にこうした傾向があると言います。
というのも日本にはいまだに「女性は家事ができて当たり前」「片付けはできて当たり前の家事」と考えている人も多く、女性自身もそうした価値観に染まってしまっているからです。そのせいで「自分は誰でもできる片付けができない、ダメな女なんだ」と感情的に落ち込んでしまうのです。
ただでさえ片付かない現実に悩んでいるところに、自分で自分を「ダメな女」とおとしめてしまうので、さらに辛い気持ちになってしまいます。
一方で完璧主義の人は「全てをきちんとこなしたい」と考えているため、きちんと片付けをこなせない自分を責める傾向にあります。やましたさんは著書の中で「キャリアの高い女性」を例に挙げていますが、完璧主義であれば男女問わず当てはまる傾向と言えるでしょう。
「モノ」に囚われている
やましたさんは「片付けられない」の非常に根深い原因として、「モノ軸」思考というものを挙げています。
少し規模の大きな話になりますが、人間の歴史とは基本的にモノ不足の歴史でした。モノが溢れてどうしようもないといった悩みが生まれたのは、世界的に見ても20世紀以降、日本では高度経済成長期(1954年~1973年)以降です。
したがって私たちの頭はモノを前にすると「(自分にとって)必要か?」よりも、「(このモノは)使えるか?」という基準で取捨選択をしてしまいがちなのです。
この「モノ軸」思考は、「捨てられない人」の典型的な思考回路です。例えば何年も着ていない服を「まだ着れるから」と押入れにしまったり、ブランド物のショッピングバッグを「せっかくだから、とりあえず置いておこう」と溜め込んだり、新しく買い換えたにもかかわらず古い掃除機を「まだ動くから」と戸棚に保管しておいたり……。
これらは全て「モノ軸」思考による判断です。
「捨てられない人」の中でもこの3つの特徴全てに当てはまる人もいれば、1つしか当てはまらない人もいます。しかし程度の違いはあっても、どれかに当てはまれば部屋は少しずつ荒れていきます。心当たりのある人は、まずここで「自分は『捨てられない人』なんだ」という自覚を持ちましょう。そしてそのうえで、自分の抱えている問題を解決していきましょう。
「捨てられる人」になるための2つの条件
・「現在」と「自分」を軸に考えられる
・「不要・不適・不快」を見極められる
「捨てられない人」が「捨てられる人」になるために必要なのは、上記の2つの条件を満たすことです。以下ではこれらがどういうことなのかを、一つずつ説明していきましょう。
「現在」と「自分」を軸に考えられる
「かつては大切に使っていたから」「いつか使うかもしれないから」と過去や未来にばかり目を向けていては、いつまで経っても現在の自分の生活空間は片付きません。大切なのは、目の前にあるモノが現在の自分と良好な関係性を結べているのかどうかです。
・目の前のモノは、現在の自分のセンスに合っているか?
・目の前のモノを手元に置いておくことで、自分に良い影響はあるか?
・目の前のモノを使うところを想像したら、良い気分になるか?
こうした自問自答を繰り返していけば、自ずと現在の自分にとって大切なモノや、必要なモノ、使いたいモノがどういうモノなのかが見えてきます。そうすると、逆に現在の自分にとって大切でないモノ、不必要なモノ、使いたくないモノも明確になります。
例えば職場の先輩からもらったブランド品のサングラスがあったとしましょう。デザインは可もなく不可もなくだけど、気に入ってるわけではなく、身につけてみてもイマイチ気分が盛り上がらない。でも先輩からもらったものだから捨てるのはしのびない。使えないわけでもないし、とりあえず置いておこう。「捨てられない人」はこんなふうに考えてしまいます。
しかし「捨てられる人」の最も重要な判断基準は「現在の自分が使いたいか」です。そのためこのサングラスの場合は、即「捨てる」という判断を下すことができます。
これは年に数回、冠婚葬祭の時に使うようなモノでも同じです。たった一着しかないフォーマルスーツを捨ててしまえば困りますが、何着か持っているようなら現在の自分が使いたいと思わないモノは捨ててしまいます。
こうして「現在」と「自分」を軸に考えられるようになれば、「捨てられない人」は「捨てられる人」への第一歩を踏み出すことができます。
「不要・不適・不快」を見極められる
不要なモノ…あれば便利だし、まだ使えるけれど、なくても困らないモノ
不適なモノ…かつては大切だったけれど、今の自分には合わないモノ
不快なモノ…長年使っているけれど、どこかで違和感や不快感を感じているモノ
引用:前掲書p84
「現在」と「自分」を軸に考えられるようになったら、次に身につけたいのが「不要・不適・不快」を見極める力です。「捨てられない人」はあれば便利だし、まだ使えるから、かつては大切だったから、長年使っているからという理由で、不要なモノ・不適なモノ・不快なモノをどんどん溜め込んでしまいます。
そうしていると現在の自分に本当に必要なモノ・適したモノ・快いモノが埋もれてしまい、自分にとって幸せな生活空間にはなりません。だからこそ「なくても困らないモノ」「今の自分には合わないモノ」「どこかで違和感や不快感を感じているモノ」を取り除き、必要なモノ・適したモノ・快いモノだけで生活空間を満たす必要があるのです。
不要なモノ・不適なモノ・不快なモノを捨てるために必要になるのが、「現在」と「自分」を軸にした判断です。というのもこれらは「便利だ」とか「大切にしていた」とか「長いこと使ってきた」といった捨てないための理由が存在するせいで、判断の軸が過去や未来、他人や社会にブレやすいからです。
そのためしっかり「現在」と「自分」に軸を置いておかないと、あっという間に「捨てない」という判断を下してしまいます。
あれやこれやと言い訳するのはやめて、とにもかくにも「現在」と「自分」という軸から「不要・不適・不快」を見極める。「捨てられる人」になるには、この姿勢が必要不可欠です。
断捨離は「全体の把握」が第一歩
最後にやましたさんが実際にモノを捨てる際のやり方について、簡単に解説します。といっても捨てることに関しては、やましたさんのやり方は非常にシンプル。ここまでに解説した判断基準が身についていれば、すんなり捨てられるはずです。
基本は「こんまり流」と同じ
こんまりこと近藤麻理恵さんは、捨てる前に家中のモノを引っ張り出し、床に並べるところから始めていました。
やましたさんも基本は同じです。やましたさんの場合床に並べるまではやりませんが、「押し入れや戸棚などのふだんは閉め切っていて、”見えない収納“を全て開け放つ」(引用:前掲書p60)ところから始めるようアドバイスしています。
押し入れは両方の引き戸を外して全開に、引き出しなら中身が見えるように引っ張り出します。こうすることで、そこに収納されているモノの総量を目で見て把握するのです。
そして自分の生活空間が次の4つのレベルのうち、どのレベルにあるのかを判断します。
厳選レベル | 理想的な状態。本当に自分にとって必要なモノだけで満たされている。断捨離の最終目標。 |
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選択レベル | ゴミやガラクタがなく、生活空間に対してモノが適量に収まっている。散らかっているだけなので、すぐに部屋が片付く。 |
分類レベル | ゴミやガラクタと、本当に必要なモノが混ざっている状態。生活空間に対してモノが過多になっている。収納にモノが収まりきらずにはみ出し、溢れている。 |
分別レベル | ゴミ置場状態。モノの量と質に対して無頓着なせいで、どこに何があるのか全く把握できていない。 |
分別レベルの人は分類レベルへ、分類レベルの人は選択レベルへ、選択レベルの人は厳選レベルへと、より上のレベルを目指すことで、生活空間は理想的な量と質のモノで満たされるようになります。
重い腰が上がらないなら「捨てやすいものから」
とはいっても、「どこから始めればいいかわからない」「あまりにも量が多いのでやる気が出ない」という人も多いはず。やましたさんはそんなときはまず捨てやすいモノから始めればいいと言います。
財布や小さな引き出し、あるいは比較的判断のしやすいモノが多い冷蔵庫など、小さくてもいいので達成感を味わえる場所から始めるのです。すると「自分は捨てられる」という自信がつき、物理的に大きな押入れや、精神的に難しい思い出の品などにも手を伸ばせるようになります。
ビジネスの世界では「スモールステップ法」と言って、大きな目標を小さな目標に分割してコツコツと積み重ねていくやり方が、オーソドックスな目標達成方法として知られています。
断捨離も同じです。全体を把握して目指すべきレベルを理解したら、それに向かって自分ができると思うことをコツコツと積み重ねていく。そうすることで、自分を幸せにしてくれる生活空間を実現できるのです。
自分で捨てられないモノは「不用品回収業者」に頼もう
しかし「捨てる」と決心しても自分で捨てられないモノもあります。例えば大きな家具や家電。これらは粗大ゴミとして処分したり、購入した家電量販店にリサイクル料金を支払って処分してもらったりと、捨てるにも手間がかかります。
とはいえ「そんなに手間がかかるなら、今はとりあえず置いておこう」と判断してしまえば、もとのもくあみです。そこで役に立つのが「不用品回収業者」です。
確かに不用品回収業者に回収を依頼すれば、自分で粗大ゴミとして処分したり、家電量販店に連絡したりするよりも費用は高くなります。しかし不用品回収業者に頼めば自宅まで取りに来てくれますし、業者によっては朝早くや夜遅く、土日にも対応してくれます。不用品回収業者に頼めば「捨てる」という決心が鈍る前に、捨てることができるのです。
ただし、依頼しようとしている業者が「違法業者」かどうかには注意する必要があります。違法業者に回収を依頼すると、最悪の場合依頼した側も罪に問われる可能性があります。余計なトラブルを避けるためにも、こちらの記事に違法な不用品回収業者を見極めるチェックポイントを10個紹介しているので、事前にチェックしたうえで依頼するようにしましょう。
あるいはリサイクルページの一括見積もりを使えば、自分の家の近くにどんな業者がいて、どれくらいの費用で回収してくれるのかが簡単にわかるので、こちらを一度試してみるのもアリです。
なお不用品回収業者は「古物営業法」という法律の関係で、明らかに壊れていてゴミとして処分しなければならないような家具や家電は原則として回収できません。手間はかかってしまいますが、そのような場合は自治体の窓口や購入した家電量販店などに連絡して、回収を依頼する必要があります。
「捨てられる人」になろう!
「捨てられる人」になれば、生活空間が快適になるだけでなく、人生そのものまで変わります。実際、やましたさんのセミナーを聞いたり、コンサルティングを依頼したりした人たちのなかには、断捨離後に恋人ができたり、職場の人間関係と向き合う勇気が湧いてきたりと、人生を好転させている人も多いのだそうです。
それはやましたさんの断捨離メソッドが、単にモノを捨てるだけでなく、きちんと自分と向き合うことが前提になっているからでしょう。ぜひみなさんも、「捨てられる人」になって人生を好転させましょう!