まったくもう!まったくもう!まったくもう!


どうしたのよ、そんなにプリプリ怒っちゃって。


向かいの家がここ1年くらいでゴミ屋敷になっちゃって、変な臭いはするし、家の前の道は散らかってるしで大変なんだ!


ゴミ屋敷かあ……それは大変だね。


何度片付けてくれって言っても「これは宝物だ」なんて言って、とりあってくれないし。


なるほど。


面倒だけど、もう僕が勝手に片付けるしかないのかも……。そうだ、それがいい!


あ、でもそれって法律的にマズいらしいわよ。


え!?じゃあどうしたらいいんだ……。


じゃあ今日は、そういう隣近所にあるゴミ屋敷への正しい対応方法について考えましょうか。


助かるよ、くるり!

ゴミ屋敷はいまや立派な社会問題です。じっさい、公益財団法人日本都市センターの調査によれば、全国370市区中いわゆる「ゴミ屋敷」の問題を抱えている自治体が216市区と全体の6割近くにも上っています。

ゴミ屋敷は住んでいる本人はもちろん、近隣にも迷惑がかかります。害虫やネズミ、悪臭などの発生。道路の通行妨害。火災のリスク。近くに住んでいる人からすれば一刻も早く片付けて欲しいものです。

たしかにゴミ屋敷清掃業者などに依頼すれば、本人が片付けなくても家はきれいになります。2019年7月には「ゴミ屋敷清掃士認定協会」(東京都港区)が発足し、業界としてもサービスの充実に取り組んでいます。

しかしゴミ屋敷問題は、あくまで本人が片付ける気にならなければ、解決には向かいません。ここでは法律や医療の観点を踏まえたうえで、近隣のゴミ屋敷への正しい対応方法を紹介します。

INDEX
  1. 「勝手に片付ける」は法律的にアウト
  2. 確実なのは「行政の力を借りる」こと
    1. 自治体が定める「ゴミ屋敷条例」
    2. 行政なら強制的に片付けさせることもできる
  3. 「主」が抱える問題を理解して、心おだやかに
    1. ゴミ屋敷の根本には「セルフネグレクト」がある
    2. なぜセルフネグレクトになってしまうのか?
    3. 根本的な解決には「地域包括支援センター」の力も必要
  4. まとめ

「勝手に片付ける」は法律的にアウト

バツの札を出す女性

自分にとっては大切なものでも、他人から見ればゴミ。自分から見ればゴミでも、他人から見れば宝もの。そういった認識のすれ違いは、夫婦の間でも、友人の間でも、そしてゴミ屋敷問題においても毎日のように起きています。

近隣の住民が「あの人は家にゴミを溜め込んでいる」「どうしてゴミに埋もれて生活できるんだろう」と思っていても、ゴミ屋敷に住んでいる人は「全部必要なもの」「全部が宝もの」と思っている、といったケースは珍しくありません。

近隣住人からすればあきらかにゴミに見えても、本人が自分の持ち物だと言い張るのであれば、それは立派な「私有財産」なのです。

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
引用元: 日本国憲法

日本は憲法で個人の財産権を認めているため、他人の所有する財産を勝手に片付けたり、捨てたりすることは許されていません。そのためゴミ屋敷の中のゴミや、道路にはみ出しているゴミを勝手に処分してしまうと、むしろ処分した側が法律に違反することになるのです。

確実なのは「行政の力を借りる」こと

そ、そんなあ……。こっちが悪くなるなんて! 迷惑をかけてるのはあっちなのに!


現状ゴミ屋敷を取り締まる法律もないしね。


え、そうなの?


うん、そうなの……。

自治体が定める「ゴミ屋敷条例」

ガベル

「ゴミをちゃんと処理していないのだから、ゴミ屋敷は廃棄物処理法に違反している」「道路にはみ出してゴミを置いているのだから、道路交通法違反では?」といった考え方もあるかもしれません。

しかし廃棄物処理法は個人宅のゴミには適用されませんし、道路交通法違反で道路上のゴミは撤去できても、家の中のゴミまでは片付けられません。

現時点では、ゴミ屋敷を取り締まる法律がないのも、ゴミ屋敷問題がなかなか解決できない原因の一つです。

しかし先ほども書いたように、全国370市区のうち約6割がゴミ屋敷問題を抱えており、その数は1,920件にも及んでいます。そこで全国の自治体の中には、独自に条例を定め、ゴミ屋敷に一定の規制を加えるところが出てきています。

・「足立区生活環境の保全に関する条例」(2012年10月制定)
・「大阪市住居における物品等の堆積による不良な状態の適正化に関する条例」(2013年12月)
・「京都市不良な生活環境を解消するための支援及び措置に関する条例」(2014年11月11月)

秋田県秋田市、福島県郡山市、埼玉県八潮市などにもゴミ屋敷関連の条例が作られています。

行政なら強制的に片付けさせることもできる

腕を組む公務員男性

これらの条例には「行政代執行」の項目が設けられており、自治体の担当者から何度も片付けるように言われているにもかかわらず、ゴミが減らない場合は、行政が業者に依頼するなどして代わりに片付けを行うことができる、とされています。

行政代執行は、市民から無理やり「財産」を奪い取る行為ですから、行政もそう簡単には実施しません。しかし名古屋や京都、東京都板橋区などでは行政代執行が実施された実例もあるため、形式だけの項目ではないのも確かです。

ゴミ屋敷問題を住民間で解決しようとすると、お互いにストレスが溜まってしまい、トラブルになる可能性も高くなってしまいます。ですが、各自治体の条例にもとづいて行政に間に入ってもらえば、余計なトラブルに心をすり減らす必要がなくなります。

そのためゴミ屋敷問題を解決するための正しい対応は、「行政の力を借りる」こと、これに限るのです。

「主」が抱える問題を理解して、心おだやかに

胸に手を当てる女性

ゴミ屋敷の根本には「セルフネグレクト」がある

仮に行政代執行などのおかげでゴミが片付いたとしましょう。しかしそれではゴミ屋敷の根本問題が解決したことにはなりません。

なぜなら単にゴミを片付けただけでは、ゴミ屋敷に住んでいる人の「ゴミを溜め込んでしまう原因」「ゴミを『大切なもの』だと考えてしまう原因」はそのままだからです。事実、行政代執行で一度はゴミを片付けても、すぐにまたゴミ屋敷化してしまう家も少なくありません。

なぜゴミ屋敷の住人たちは、片付けてもまたゴミを貯めたり、集めたりしてしまうのでしょうか。その原因の一つとして考えられているのが「セルフネグレクト」です。

東邦大学大学院看護学研究科の岸恵美子教授によれば、セルフネグレクトとは「健康、生命および社会生活の維持に必要な、個人衛生、住環境の衛生もしくは整備又は健康行動を放任・放棄していること」(引用:自治体による「ごみ屋敷」対策ー福祉と法務からのアプローチー)です。

つまるところ、自分で自分の生活が管理できなくなった状態のことです。ゴミ屋敷に住んでいる人の状況は様々ですが、おおむねセルフネグレクト状態にあると言えるでしょう。

なぜセルフネグレクトになってしまうのか?

クエスチョンマーク

セルフネグレクトには様々な原因があると考えられています。

・病気になり、体が思うように動かせない。
・入院などがきっかけで地域社会や家族との関係が途切れている。
・家族関係のトラブルを抱えており、困ったときに助けてもらえない。
・身内の死に直面したことで、気分がふさぎこんでいる。 など

こうした背景があることを考えれば、一方的に「片付けてくれ」「なんとかしてくれ」と言うだけでは、ゴミ屋敷問題が解決しないことは明らかです。

ゴミ屋敷に住む人は「心身のトラブルを抱えていて、自分ではどうにもできない状態」だという可能性が高いからです。仮に行政代執行などで業者が一切合切を片付けても、本人の抱える問題が解決されていないのですから、時間が経てばゴミ屋敷が復活するのも、ある意味では自然な結果かもしれません。

根本的な解決には「地域包括支援センター」の力も必要

笑顔の看護師さん

医療的な問題になると、ゴミ屋敷関連の条例の担当者では解決が難しくなります。そんなときに頼れるのが、全国に5,000近くある「地域包括支援センター」です。地域包括支援センターとは、介護・医療・保健・福祉などの専門的な知識を持つ職員で構成される、各自治体が設置している施設です。

ゴミ屋敷の「主」になるのは、多くが高齢者ですが、地域包括支援センターは対象地域在住の65歳以上の高齢者、もしくはその支援をする人であれば利用することができます。じっさい、ゴミ屋敷問題に取り組んでいるセンターもあるため、相談に乗ってくれる可能性は十分あります。

恨むべきはゴミ屋敷の住人ではなく、住人がかかっている病気。そう思えるようになれば、彼らに対してキツい言葉を使ったり、必要以上にストレスを感じたりする必要はなくなるはず。するとゴミ屋敷を生んだ根本的な問題にも、じっくり向き合っていけるようになるでしょう。ゴミ屋敷問題は、行政の力を借りながら、そうやってゆっくりと解決していくべき問題なのです。

まとめ

まさかゴミ屋敷問題がこんなに複雑だったなんて……。


単に自己管理がなってないだけ、じゃないんだね。


ゴミを片付けるのも大事だけど、セルフネグレクトなんかへの理解も、同じくらい大事なのかも。


うん、そうだね。ゴミ屋敷に住んでいる人も、ゴミ屋敷にしたくてそうなったわけじゃないかもしれないんだし。


僕もまずは、自治体に相談してみるよ。助かったよ、くるり。


それがいいと思う。少しでも力になれてよかったよ。

近隣のゴミ屋敷をなんとかしたいと思ったら、まずは行政の窓口に相談しましょう。ゴミ屋敷関連の条例がある自治体であれば、担当者がゴミ屋敷の持ち主を直接説得してくれたり、場合によっては代執行を行ってくれたりする可能性もあります。

しかし持ち主がセルフネグレクトなどの問題を抱えているようなケースでは、片付けるだけで問題は解決できません。ただしその場合も、住民だけでどうにかしようとするのではなく、地域包括支援センターなどに相談することで、行政の力を借りるようにしましょう。

ゴミ屋敷問題は簡単に解決できるものではないため、個人対個人でどうにかしようとしても、なかなかうまくいきません。行政と協力しながら、じっくり解決していく姿勢が大切だといえるでしょう。