「押し買い」とは貴金属や宝石をはじめ、なんらかの品物を不当に安い料金で、強引に買い取る悪徳商法を指します。
この商法による被害は近年減少傾向にありますが、その要因の一つは特定商取引法で定められている押し買いについての理解が消費者に浸透したためとされています。
これは消費者にとっては喜ぶべき事態ですが、買取を行うリサイクル業者にとってはこれまで以上に押し買い防止策が必要な事態になっていると言えます。
ここでは近年の押し買い被害の状況をおおまかに説明するとともに、近年の行政処分や苦情相談内容から、リサイクル業者が注意するべきポイントについて解説します。
特定商取引法の浸透で「押し買い」被害が減少
『平成25年版消費者白書』によれば、2010年度から2011年度にかけて、押し買いについての苦情相談件数が急増。
これを受けた消費者庁は、「貴金属等の訪問買取りに関する研究会」を開催、2013年2月21日に押し買いに対する規制や、買取時のクーリングオフ制度を組み込んだ改正特定商取引法が施行されます。
その結果、少しずつ苦情相談件数は減少していきます。
2016年に8,656件だった件数は、2017年には8,431件に、2018年には6,651件に減少し、2019年9月30日時点でも前年より700件以上少ない2,272件となっています(独立行政法人国民生活センターより)。
大きな要因としてあげられるのは、2013年以降5〜6年をかけて、押し買いという悪徳商法の存在が、消費者側、リサイクル業者側の両方に浸透してきたことでしょう。
押し買いの存在を知らなかったかつての消費者は、悪質な買取を受けても「こんなものなのかな」と受け入れてしまいがちでした。
しかし、今の消費者はネットやテレビなどで押し買いに関する番組やニュースを目にしているので、「これは押し買いかもしれない」と疑えるようになったのです。
結果その場で断れる消費者が増え、押し買いの被害が減少した、と考えられます。
またリサイクル業者も押し買いで摘発されたり、行政指導を受けたりする同業者の姿を見れば、どんな買取をすれば押し買いと判断されるのかを学ぶことができます。
もちろん初めから押し買いを目的に買取をしている業者は、それでも押し買いを続けるでしょう。
しかし大半のリサイクル業者は法律を守って営業したいと思っているので、押し買いにならないよう注意して買取をするようになります。
こうして押し買いの苦情相談件数が減少していった、とも考えられるのです。
リサイクル業者は訪問購入の「基本」に忠実な営業を
悪徳業者が減少していくことは、業界の健全化を考えれば歓迎すべきことです。ただし注意したいのは、押し買いかどうかの最初の判断が消費者側に委ねられている点です。
行政指導や行政処分が下されるには、行政側が「この業者の買取は悪質な押し買いだ」と判断する必要があります。
しかし「押し買いかもしれない。国民生活センターに相談しよう」「あの業者はきっと押し買いだ。ネットに口コミを書いておこう」という判断を下すのは、消費者なのです。
実際は押し買いではなくとも、消費者が押し買いだと思った時点で、国民生活センターへの相談やネットへの口コミ投稿につながる可能性があるため、リサイクル業者は今まで以上に押し買いにならないよう注意をし、訪問購入の基本に忠実な営業を心がける必要があるのです。
不用品回収業者・出張買取業者が「押し買い」と誤解されないための4つのルールでは、この基本の部分を解説しています。すなわち、
・最初の段階で「素性」をはっきり伝える
・「○○ありませんか?」ではなく、「○○の買取もやってます」
・「書面」に必要な記載を把握しておく
・接客を通じて「信頼関係」を築く
の4つのルールです。現状、特に押し買い防止策を実施していないリサイクル業者は、まずこちらの記事を参考に、従業員教育などを行っておきましょう。
最近の行政処分案件、「押し買い」相談に学ぼう
最後に、最近の行政処分案件、「押し買い」相談の内容から、リサイクル業者がどんな点に注意するべきかを考えておきましょう。
消費者庁が公開している行政処分の執行状況を見ると、どのようなケースでリサイクル業者が処分を受けているのかがわかります。
直近3年間の押し買いに対する行政処分のなかで最も多いのは、貴金属やアクセサリーに関するものです。
貴金属などは新品の定価が高いだけに、買取金額が安くなってしまうと「買い叩かれたのでは」という疑問が生まれやすい商材と言えます(強引に買い取ったり、黙って持ち帰ったりするのは論外)。
そのため貴金属やアクセサリーの取引が多いリサイクル業者は、買取金額の根拠を一つ一つ説明するなど、消費者が納得して売りに出せるような対応が必要です。
また国民生活センターによれば、最近の相談の中には「買取金額が安かったので解約しようとしたら、解約できないと言われた」「クーリング・オフを断られた」「クーリング・オフをしようとしたら、すでに転売したと言われた」といったものが目立つそうです。
クーリング・オフの説明や、クーリング・オフ制度にのっとった返品は、法令で定められているため、遵守を心がけなければなりません。
電話対応スタッフへの周知はもちろんのこと、返品の際に送料等を消費者側に負担してもらいたい場合は、あらかじめ契約時に伝えることも忘れないようにしましょう。
まとめ
大半のリサイクル業者は、「押し買いをしてやろう」と考えて買取をしていないはずです。
ところが、こちらにそのつもりがなくとも、消費者が「これは押し買いかもしれない」と受け取って、消費生活センターなどに相談したり、ネットの口コミに書き込んだりすれば、ビジネスに悪影響が出てしまいます。
実際に押し買いをしていないのであれば、消費生活センターなどへの相談の有無は気にする必要はありません。
しかしネットの口コミに関しては、悪い評判が広がってしまうと集客がしにくくなる可能性は十分あります。そのため悪い印象を与えるのは、なるべく避けたいところです。
今一度、全従業員に「押し買い」防止策の周知徹底を行っておきましょう。