0円

不用品回収業を営んでいれば、冷蔵庫・冷凍庫や洗濯機・衣類乾燥機、テレビにエアコンといった家電4品目を回収したり、買い取る機会はたくさんあると思います。しかし当たり前のように回収・買取をしているその取引、本当に法的に正しい方法でやれているでしょうか。

というのもいわゆる「無料回収」や、数百円といった安い金額での買取は、有価物ではなく廃棄物の取引だと見なされる可能性があるのです。それは一般廃棄物収集運搬業許可が必要な取引になるため、許可なしの取引は全て違法営業扱いになってしまいます。

ここでは、家電4品目を正しく回収・買取するために、不用品回収業者が理解しておくべき「使用済家電製品の廃棄物該当性の判断について」(通称:0円通知)という通知について解説します。

INDEX
  1. 「買い取っているから有価物」はもう通用しない
  2. 「0円通知」はなぜ生まれたか?
  3. 「0円通知」を根拠に逮捕された不用品回収業者の実態
  4. 「0円通知」とうまくやっていく方法
  5. 「違法な回収・買取」と「合法な回収・買取」の違いを知っておこう

「買い取っているから有価物」はもう通用しない

0円通知は平成24年3月19日付で公表された通知で、使用済家電における有価物と廃棄物の判断基準を明確にした文書となっています。この通知が出るまでは、使用済家電を無料で回収していても「有価物として業者に引き取ってもらい、海外に輸出しているから有価物だ」と言えましたし、数百円といった安い金額で買い取っていれば「有償で買い取っているから有価物だ」と言うことができました。そのため使用済家電の買取はもちろん、回収にも一般廃棄物収集運搬業許可は必要ありませんでした。

有価物と廃棄物の考え方

しかし0円通知はこうした言い分による使用済家電の回収・買取にNOを突きつけたのです。0円通知で示された使用済家電における有価物と廃棄物の判断基準とは、「リユース目的の有償譲渡=有価物」「リサイクル目的の有償譲渡=廃棄物」というものでした。具体的には以下のような内容が書かれています。

1.年式が古い、通電しない、破損しているなどリユース品としての市場価値が認められない場合は廃棄物とみなす。
2.雨ざらしの収集保管などリユース目的だとは思えないような扱いがされている場合は廃棄物とみなす。
3.廃棄物処理基準を満たさないような不適切な分解や破壊などが行われている場合は廃棄物とみなす。
4.リユースに適さないにもかかわらず海外に輸出されるような場合も、廃棄物である可能性を積極的に検討する。

これら4つの項目は全て無料回収はもちろん、お金を支払って買い取っている場合でも適用されます。これにより行政は「有価物として業者に引き取ってもらい、海外に輸出しているから有価物だ」という言い分に対して「輸出先の国でリユースされていないなら廃棄物です」と言えるようになり、「有償で買い取っているから有価物だ」という言い分にも「リユース品としての市場価値がない、もしくは不適切な扱いがされているようなら廃棄物ですよ」と指摘できるようになったわけです。

0円通知以前は「お金をもらって回収するものは廃棄物」「お金を渡して回収するものは有価物」という認識が一般的でしたし、それで問題はありませんでした。しかし0円通知以降は、少なくとも「お金を渡して回収するものは有価物」だとは限らないという話になったのです。

「0円通知」はなぜ生まれたか?

0円通知が生まれた背景には大きく3つの原因がありました。

第一に心ない不用品回収業者による詐欺まがいの行為が増加したからです。無料回収や数百円での買取を広告などで宣伝すれば、消費者は「安いところに頼もう」という発想になります。しかし不用品回収業者からすれば、儲けは少なくなります。結果トラックに積み込んでから「回収自体は無料ですが、積込手数料として5万円いただきます」というやり口を選ぶことになります。

第二に同じく心ない不用品回収業者による不法投棄や不適切処理が増加したからです。例えば冷蔵庫やエアコンから「お金になる部分」だけを抜き取ったあと、残りの「お金にならない部分」を空き地や山に捨ててしまうのです。なぜこんなことをするのかというと無料回収や数百円での買取をする業者の儲けは少ないため、「お金にならない部分」の処分費用を支払ってしまうと儲けがなくなってしまうからです。

発展途上国の廃棄物

第三に輸出された使用済家電が発展途上国で不適切な方法で分解されるなどして、環境問題化しているからです。スラム街に運び込まれた使用済家電は、環境への配慮などお構いなしに低温の火で焼かれ、下から溶け出てくる金属だけが回収されて、道端に放置されます。放置されることも問題ですが、空気の汚染も大きな問題です。こうした環境問題が、日本からの無責任な輸出で起きているのならば、これを放っておくわけにはいきません。

0円通知はこうした問題を解決するべく、作られたのです。

「0円通知」を根拠に逮捕された不用品回収業者の実態

しかし0円通知が出された当時、専門家の見解では「この通知を根拠に何か法的な処分をするのは難しい」とされていました。なぜなら「リユース目的の有償譲渡=有価物」「リサイクル目的の有償譲渡=廃棄物」といっても、そもそもリユース品とリサイクル品の見極めは非常に難しく、「リユース品だと思って買い取ってみたが、フタを開けてみると売り物にならなかった」というケースはいくらでもあるからです。

ところがそうした専門家の見解とは裏腹に、平成25年4月には0円通知を根拠にした逮捕者が出て、5月には罰金刑が決定しています。この事実だけを知ると「行政も本気なのか」と思ってしまいますが、事件について調べてみると、逮捕されても無理はない状況だったことがわかります。

第一に逮捕された業者は以下の5つの営業行為を行なっていました。

①拠点型回収(無人)
②市民若しくは業者から無料回収若しくは買取り
③使用済特定家庭用機器はすべて雨ざらし保管
④テレビ(14 インチ以下)、エアコンはそのままの状態で売却
⑤その他の家電製品等は重機で破砕後、「雑品」として商社を通じ輸出
引用元:岐阜市における家電リサイクルに関する取り組みと対策

第二に行政から3回に渡って「改善指導書」を交付されたうえに、何度も指導を受けていたにもかかわらず、家電製品等の破砕行為を繰り返していました。この結果一般廃棄物の無許可収集運搬違反で強制捜査が行われ、逮捕・罰金刑に至ったというわけです。

共同通信社の報道によれば逮捕者本人は「違法とは知らなかった」と答えているようですが、再三にわたって行政からの指導を受けていたにもかかわらず「知らなかった」というのは考えにくいでしょう。逮捕者は略式起訴されたあと、総額450万円近くの費用を負担して回収した使用済家電と粗大ゴミを処理しています。

ここまでやれば逮捕されたり罰金刑を課せられたりする可能性は十分あります。しかし0円通知とうまく付き合う方法を知っていれば、何の問題もなく合法的に回収・買取が可能になります。以下ではそのための2つの方法を紹介します。

「0円通知」とうまくやっていく方法

有価物をリユース目的で回収する

まず理解しておくべきは0円通知の正式名称が「使用済家電製品の廃棄物該当性の判断について(通知)」だということです。つまりこの通知はあくまで「使用済家電製品」に限られているのです。したがって「使用済家電製品」に該当しない家具などには従来と同じ「海外に輸出して売っているから有価物」「買い取ってるから有価物」といった理屈が通用します。

次に知っておくべきは「家電リサイクル法」の存在です。この法律は冷蔵庫・冷凍庫や洗濯機・衣類乾燥機、テレビにエアコンといった家電4品目の処分方法について定めたもので、これらの収集運搬ルールについても定めています。その中に「量販店やリユースショップといった小売店からの依頼があれば、一般廃棄物収集運搬業許可がなくてもリサイクル料金+運搬費用で回収しても構わない」というルールがあります。

確かに「リサイクル料金+運搬費用」は受け取る必要があるため、無料回収やお金を渡しての買取はできません。しかし「ウチは家具しか回収・買取できません」といって断ってしまうよりは、利用者にとっての利便性は何倍にも上がるでしょう。

0円通知の登場でできないことは増えましたが、やりようによってはちゃんと回収・買取は可能なのです。

「違法な回収・買取」と「合法な回収・買取」の違いを知っておこう

前述の不要品回収業者の逮捕について尋ねられた他の不要品回収業者の中には、行政の取材に対して「無料回収の需要は高く、特に高齢者宅に回収に行くと感謝される」という回答をした人がいたようです。確かにこれは多くの不要品回収業者が実感していることでしょう。「今の環境行政では現実に対応できない」と考える人もいるでしょうし、実際に対応できていない部分も多々あります。

しかしだからといって違法な回収・買取をやっていいという話にはなりません。廃棄物処理法などの法律はもちろん、通知を含めたルールへの理解を深め、違法・合法の境界線を知っておきましょう。