大量のスマホ

2019年3月に電気通信事業法の一部を改正する法律案が閣議決定されたことを受け、今後中古スマホ市場が大きく変わっていくという見方が強まっています。

ここでは今回の法改正を含めた政府の動きや企業の動きなどをレポートするとともに、中古スマホ市場の変化に応じてリサイクル業者がどう動くべきなのかを考えます。

INDEX
  1. 中古スマホ市場は今後盛り上がる?
    1. 夏までに「セット割」が法律上禁止される見通し
    2. 政府の「中古スマホ推進」が加速中
    3. NTTdocomo(ドコモ)がSIMロック解除の条件を緩和
  2. 一方で「中古スマホ不要論」も根強い
    1. 日本の中古スマホ市場が未成熟
    2. 型落ちの新品スマホの方がメリットが大きい
  3. リサイクル業者は参入すべき?それとも静観すべき?
    1. 小売業者は「静観」もしくは「無視」も選択肢
    2. 卸売業者の参入は慎重に
  4. まとめ

中古スマホ市場は今後盛り上がる?

今回の電気通信事業法の改正法案が国会でも可決された場合、近年急速に伸びつつある中古スマホ市場は、ますます盛り上がると見られています。以下では3つの視点から、その理由を見ていきましょう。

夏までに「セット割」が法律上禁止される見通し

電気通信事業法の改正法案のポイントは大きく以下の3点となっています。

・モバイル市場の競争の促進
・販売代理店への届出制度の導入
・事業者、販売代理店の勧誘の適正化
引用:総務省資料より

このうちモバイル市場の競争の促進の具体的な方法として、これまでモバイル業界では当たり前になっていたセット割を「端末代金と通信料金が一体化しており、利用者に分かりにくく不公平」と指摘し、法案可決後の夏をめどに禁止するとしています。

セット割の仕組み

セット割を禁止したあとは、端末代金と通信料金を完全に分離し、消費者にとって分かりやすい料金体系にすることを義務付けています。これにより高止まり傾向にある通信料金の値下げを促進するとともに、頻繁に買い替えを行なって端末代金の割引を受けている消費者と、同じ端末を使い続けている消費者との間の不公平感を緩和しようというわけです。

しかし同時にこの改正により、一見したときの端末代金はどうしても以前より高く見えてしまいます。結果新品のスマホやタブレットの購入者が減り、中古市場に流れてくると考えられているのです。

政府の「中古スマホ推進」が加速中

総務省

端末代金の高額化に伴って、政府は代金の負担軽減を目的に、下取りに出せる中古スマホや中古タブレットを増やすことで、中古スマホ市場の拡大を推進しています。総務省が有志企業を募って発足させたモバイル市場の競争環境に関する研究会リユースモバイル関連ガイドライン検討会もその一環です。

3月には同研究会の第9回会合を開いて中古スマホの流通について議論が交わされたほか、同検討会では状態の格付けやデータ消去、法令遵守などの標準化を目的として、関連事業者の自主基準となる「リユースモバイルガイドライン」が発表されています。

NTTdocomo(ドコモ)がSIMロック解除の条件を緩和

こうした政府の動きを受けて、2019年2月時点でNTT docomoがSIMロック解除の受付条件を一部変更、事実上の緩和を行いました。以下の条件に当てはまるスマホであれば、「知人・友人などから譲り受けた携帯電話機」や「中古端末販売店などで購入した中古の携帯電話機」であってもSIMロック解除を受け付けることとしたのです。

・ドコモに購入履歴が残されている。
・ネットワーク利用制限の対象となっていない。
・「おまかせロック」など、遠隔操作によるロックがかかっていない。
・購入から100日経過している。(分割払い、または端末購入サポートで買った場合)

こうした条件緩和を行なったのは現時点でNTT docomoのみで、auとSoftBankの予定は未定。しかしauとSoftBankもNTT docomoに続くと見られています。SIMロックがされているスマホはそのキャリアでしか使えないため、中古ユーザーの選択肢が狭くなっていました。しかしこうした条件緩和が進めば中古ユーザーの選択肢が広がり、より中古スマホが流通しやすくなると考えられます。

一方で「中古スマホ不要論」も根強い

以上の3つの視点から見ると、今後中古スマホ市場が盛り上がることは間違いないように思えます。しかし一方で中古スマホの需要には限界があると考える向きも少なくありません。以下ではその理由となる2つの視点を紹介しましょう。

日本の中古スマホ市場が未成熟

赤ん坊

日本ではいまだに消費者の中古スマホへのイメージが悪く、外観の傷だけでなく動作不良やバッテリーの消耗等のリスクを考えて、中古スマホに手を伸ばさない人も少なくありません。

これに対して、日本よりも中古スマホ市場が発達している諸外国では、修理事業者が外観やバッテリーなどを含めた高品質な修理を行うことで、新品同様の中古スマホも供給できるような体制が構築されています。

この点が改善されない限り、中古スマホは結局のところリスクの高い買い物でしかありません。したがって「中古スマホを購入して使う」という選択肢は日本の消費者の間に浸透しにくいと言えるのです。

型落ちの新品スマホの方がメリットが大きい

NTT docomoはSIMロック解除の条件緩和とほぼ同時に、対象機種の購入で利用料金がずっと毎月1,500円割引となる「docomo with」のラインナップに、iPhone7を加えました。しかも docomoオンラインショップで一括4万2,768円となっており、アップルの公式通販よりも1万円近く安く購入できるようになっているのです。

こうした型落ちの新品スマホの販売は、今後も広がっていくと見られています。そうなれば動作不良、バッテリーの消耗といった見えないリスクを抱える中古スマホは、より消費者の選択肢から除外されていくでしょう。

リサイクル業者は参入すべき?それとも静観すべき?

「中古スマホ市場は今後盛り上がる」「中古スマホの需要には限界がある」どちらの見方が正解なのかは、今のところ誰にも分かりません。では現時点で、リサイクルショップや不用品回収業者などのリサイクル業者は、中古スマホ市場に対してどのような動きをするべきなのでしょうか。

以下ではリサイクルショップをはじめとする小売業者と、不用品回収業者をはじめとする卸売業者それぞれにとっての選択肢を考えてみましょう。

小売業者は「静観」もしくは「無視」も選択肢

3191店頭買取(リサイクルショップ)

すでに中古スマホ市場に参入している場合は別として、これから参入しようと考えている小売業者には、もちろん今後の盛り上がりに先駆けて参入するというのも選択肢の一つです。

しかしそれはあくまで選択肢の一つでしかありません。なぜならまだ未成熟な日本の中古スマホ市場では、今ある限られたパイを既存業者と食い合うだけになる可能性が高いからです。そのため今後どうなっていくのかを静観する、もしくは他の商材で利益が確保できているのであれば一旦無視しておくというのも、十分有効な選択肢と言えるでしょう。

卸売業者の参入は慎重に

作業服の人たち

これに対して卸売業者の方は、現時点で中古スマホを取り扱っている小売業者に卸す前提で動くのであれば、静観や無視をする必要はないでしょう。

ただし中古スマホの買取には見た目の状態以外にも「分割払いの支払いが残っていないか」「動作不良はないか」「バッテリーの消耗はどれくらいか」「個人情報は残っていないか」などのスマホ特有の買取基準を理解し、買取のお客様との間にトラブルがないように対策を講じなければなりません。

そのため新規参入を検討している場合は、そうしたリスクへの対策をあらかじめ講じたうえで、慎重に行う必要があるでしょう。

まとめ

政府が本腰を入れて中古スマホ推進に動いていることを考えれば、今後この市場が拡大していく可能性は十分にあります。しかしスマホを中古商材として扱う場合には、スマホ特有の注意も必要です。また市場が未成熟であることや、型落ち新品スマホの存在もあるため、今考えられているような市場の拡大が見込めない可能性もあります。

そのため、リサイクル業者は自社にとって何がベストの選択肢かを慎重に見極める必要があるでしょう。