特殊清掃業とは?遺品整理との違いや仕事内容について解説でも触れたように、特殊清掃業は肉体的、精神的に言ってもそう簡単に始められるようなビジネスではありません。

これは許可や資格の面でも同様のことが言えます。というのも一口に特殊清掃業と言ってもその業務の幅は広く、法律で定められた許可や資格を取得したり、最新の情報を手に入れるために資格の勉強をする必要が出てくるからです。

ここでは現状の特殊清掃業界が抱えている問題を指摘するとともに、取得が必要な許可と資格、そして取得しておくと集客や現場での仕事に役立つ許可と資格を紹介します。

許可・資格がない特殊清掃業者の問題

2013年〜2015年の3年間の間に、特殊清掃業者の数が15倍超に増えたというデータもあるほど、近年特殊清掃業者の数は増加しています。しかしそれと同時に、特殊清掃業者に関連する問題も増えています。

その原因として考えられるのが、許可や資格を取得せずに営業している特殊清掃業者の存在です。以下では許可・資格がない特殊清掃業者の問題について考えておきましょう。

法律に抵触する可能性がある

第一の問題は、日本が国や自治体として定めている法律や省令に違反している可能性があるという点です。特殊清掃業の仕事には、メインとなる清掃作業や消臭・除菌作業の他にも、リフォームや遺品整理、遺品の買取や害虫駆除といったサービスが含まれます。

これらの中には特別な許可や資格がなくとも商売として行っていいものもあれば、許可や資格がなければ商売にしてはいけないものも含まれています。

法律が必要な許可や資格を定めているということは、むやみに商売をされると社会や消費者に対して不利益が出る可能性が高いということです。そのため国や自治体は、許可や資格なしに営業をしている業者に対しては行政処分などの対応をとるのです。

こうした事態に陥らないためにも、取得が必須とされる許可や資格については、確実に取得しておく必要があります。

依頼者に迷惑がかかる

特殊清掃サービスにおける代表的なトラブルには異臭残りなどが挙げられます。これは文字通り、清掃が不十分で異臭が残ってしまうことを指します。特殊清掃の現場は一見表面的な汚れに見えても、床や壁にまで遺体の体液などがしみ込んでいて、床材や壁材ごと清掃したりリフォームしたりなければ異臭を根絶できないケースも少なくありません。

せっかく安くない料金を払って依頼をしたのに、十分な仕事ができていないとなれば依頼者に迷惑がかかってしまいます。しかしそうした十分な消臭を行うためには、技術と知識、経験が必要不可欠です。

このうち技術や経験は現場でしか学べませんが、知識に関しては許可や資格を取得する過程で勉強したり、同業他社と情報交換をしたりすることで補うことが可能です。そのため仮に法律上取得が必須でなくとも、関連する分野の許可や資格は取得しておいた方がプラスになるのです。

取得するべき許可・資格と取得しておくと良い許可・資格を知ろう

違法な業者として行政処分を受けたり、せっかく依頼してくれた消費者に迷惑をかけたりしないためには、まず自社に必要な許可や資格がなんなのかを把握しておく必要があります。

そこで以下では取得するべき許可・資格と取得しておくと良い許可・資格、それぞれについて代表的な許可・資格を紹介していきます。

【業務内容別】取得するべき許可・資格

まずは法律上、取得しておかなければならない許可・資格について把握しておきましょう。といっても特殊清掃をするうえで許可や資格が必須となるのは500万円以上のリフォームをする場合と、遺品の買取をする場合が中心になります。

500万円以上のリフォーム

内装仕上工事業の許可

壁紙や畳、床材の張替えを行う際に、請負代金が消費税込500万円以上になる場合は、建設業許可の一種である内装仕上工事業の許可が必要になります。この許可は取得のハードルが非常に高く、下記のような条件を満たしていなければなりません。

○内装仕上工事業の経営業務管理責任者の有資格者が在籍している。
内装仕上工事業を5年以上経営していたか、内装仕上工事業以外の建設業を6年以上経営している必要がある。

○以下のいずれかの有資格者が在籍している。
・1級建築施工管理技士
・2級建築施工管理技士(仕上げ)
・1級建築士
・2級建築士
・技能検定の1級畳製作・畳工
・技能検定の2級畳製作・畳工+合格後3年以上の実務経験
・技能検定の1級内装仕上げ施工、カーテン施工、天井仕上げ施工。床仕上げ施工、表装、表具、表具工
・技能検定の2級内装仕上げ施工、カーテン施工、天井仕上げ施工。床仕上げ施工、表装、表具、表具工+合格後3年以上の実務経験

500万円未満の施工は例外

ただし、請負代金が500万円未満の場合であれば、内装仕上工事業の許可を取得する必要はなくなります。そのため状況を見極めて自社でできる範囲の依頼だけを請け負うのであれば、許可を取得しなくとも特殊清掃に伴うリフォームを行うことは可能です。

とはいえ許可が必要ないからと雑なリフォーム工事をするようであれば、依頼者の不利益になるうえ、自社の評判も大きく低下します。また請負代金を500万円未満にするために中途半端なところで作業を終えてしまえば、異臭残りのトラブルになる可能性も高くなります。

したがって特殊清掃サービスを始める際は、請負代金にかかわらず、許可を取得できるレベルの人材や設備を整えておく必要はあるでしょう。

遺品の買取

古物商許可

特殊清掃の過程で出てくる遺品を買い取ってリユースするのであれば、その時点で遺品は古物営業法上の古物とみなされます。結果古物を取り扱うために、古物営業許可の取得が必要となります。

古物商許可の取得方法については古物商を営むにはでも詳しく解説していますが、申請さえすればたいていの場合は取得することができます。依頼者のニーズに柔軟に対応するためにも、あらかじめ取得しておきましょう。

産業廃棄物収集運搬業許可も取っておこう

遺品の買取をするのであれば、古物商許可以外にも産業廃棄物収集運搬業許可も取得しておくようにしましょう。というのも現場で「これはリユースできる」と判断した遺品でも、いざ倉庫などに持ち帰ってみて検品すると、売り物にするのは難しいというケースも少なからず発生するからです。

その際は古物商としての自社から出た廃棄物=産業廃棄物として処理できるケースがあるため、処理コストを抑えるという意味で、産業廃棄物収集運搬業許可が役に立つのです。

こうしたケースのより詳しい考え方については「売り物にならない回収品」をどう扱う?違法回収業者にならないための正しい取扱方法「売り物にならない回収品」について、公的機関の見解編に詳しく説明しているので、あわせて参照ください。

また産業廃棄物収集運搬業許可の取得方法については、以下の記事で解説していますので、こちらも参考にしてください。

不用品回収業者は「産業廃棄物収集運搬業許可」を取得すると何ができる?取得方法についても解説

取得しておくと良い許可・資格

続いて法律上必須ではないものの、特殊清掃業を営むうえで取得しておくと集客や現場での仕事に役立つ許可や資格を紹介します。

事件現場特殊清掃士

事件現場特殊清掃士は、2019年2月現在唯一の特殊清掃に特化した民間資格です。運営しているのは北海道に拠点を置く事件現場特殊清掃センターです。

取得にあたっては、以下のような現場で必要になる知識を身につけることができます。

・特殊清掃に用いる薬剤の正しい知識や使い方
・消臭・脱臭の基本的な知識
・関連法令についての知識や解釈
・実務に向けた心構えや留意点 など

これから特殊清掃の世界について知りたいという人や、同業他社との差別化、会員企業との情報交換などを行いたいという人は、まずこの資格から取得しておくといいでしょう。

建築物清掃業登録

2019年2月現在、国は建築物清掃業(建築物内の清掃を行う事業)について、各都道府県への任意登録制度を設けています。任意の制度なので、登録しなくても行政処分等の対象にはなりませんが、都道府県に認められている事業者としてホームページなどでアピールすることができます。

また登録にあたっては、別途清掃作業監督者の資格を取得しなければなりませんが、その過程で建築物の清掃に関する基本的な知識を身につけられるというメリットもあります。

建築物ねずみ昆虫等防除業登録

建築物清掃業と同じく、建築物ねずみ昆虫等防除業(建築物内において、ねずみ昆虫等、人の健康を損なう事態を生じさせるおそれのある動物の防除を行う事業)についても任意登録制度が設けられています。

これもホームページなどでのアピールポイントになるほか、登録にあたって必要な防除作業監督者という資格の勉強をする際に、ネズミやゴキブリ、ウジなどの特殊清掃の現場に関連する生き物についての知識を身につけることもできます。

脱臭マイスター資格

脱臭マイスター資格は、一般社団法人日本除菌脱臭サービス協会が運営している民間資格です。

元来は医療施設や介護施設、ホテルなどの生活環境における臭気問題を解決する新しい脱臭技術の継承と、品質保証を目的として運営されている資格ですが、脱臭・消臭は特殊清掃においても非常に重要なキーワードです。そのため資格取得の際に得られる知識や、他の協会会員との情報交換は、きっと事業にも役立つことでしょう。

ハウスクリーニングアドバイザー

ハウスクリーニングアドバイザーは日本生活環境支援協会が運営する民間資格の一つです。プロと一般家庭の道具の違いや選び方の基準、道具の使い方や洗剤の種類など、ハウスクリーニングについての基本的な知識を学ぶことができます。

特殊清掃のような特別な現場には活用できない知識も少なくないかもしれませんが、掃除についての基礎的な部分から学びたいという人や、特殊清掃以外にもハウスクリーニングを請け負いたいと考えている人には、取得しておくといい資格です。

遺品整理関連資格

特殊清掃を行う際、同時に遺品整理もサービスとして提供するのであれば、遺品整理関連の資格も取得しておくといいでしょう。以下では3つの関連資格を紹介しておきます。

遺品整理士

メディアなどの報道で有名になった、遺品整理関連の代表的な資格が遺品整理士です。遺品整理をとりまく法律や心構えなど基本的なことを学べるうえ、資格の名前が広く知られているため、集客のためのアピールにもなります。

遺品整理士の詳しい内容については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせて参照ください。

「遺品整理士資格」とは?不用品回収業者が取得すると何ができる?

遺品査定士

遺品査定士という資格は、一般社団法人遺品整理士認定協会が運営する資格の一つです。近年増加している遺品買取時の不正被害やトラブル、業者の心ない対応を防止・抑制するために立ち上げられたもので、取得の過程で遺品買取という特殊な状況を踏まえたノウハウや専門知識、法令解釈などが身につきます。

遺品の買取サービスを請け負おうと考えている人にとっては、取得しておくと良い資格の一つと言えそうです。

グリーフケアアドバイザー

グリーフケアアドバイザーは日本グリーフケア協会が運営する民間資格で、日本人が死別時に感じる悲しみや苦しみの傾向について学ぶとともに、それを癒すために必要なアプローチ法を身につけることを目的としています。

特殊清掃や遺品整理という仕事が、遺族である依頼者にとってどのような位置付けにあるのかを理解する。またその仕事に携わる人間である自分たちがどう振る舞うべきかを知る。この二つの意味で、特殊清掃業者が取得しておくと良い資格の一つと言えます。

まとめ

特殊清掃は依頼する側にとって安いサービスではありません。結果、近年は依頼側が安心して仕事を任せられる、ある程度の実績や口コミがあるところに依頼が集中する傾向にあります。

したがってどんなに技術があっても、ここで紹介したような許可や資格を持たないまま新規に参入しようとすると、より集客が難しくなってしまいます。なぜなら依頼側に対するアピールポイントがほとんどなくなってしまうからです。もちろん無許可営業をしていれば、アピールどころの話ではありません。

もちろん、許可や資格を持っているだけで実力がなければ評価はされません。そのため技術や経験はある程度実地で学んでおく必要があります。しかしそれでも、許可や資格というきっかけがなければ全く実績のない業者に依頼が舞い込む可能性は大きく下がってしまいます。

実力を発揮するきっかけづくりのためにも、ここで紹介したような許可や資格の取得を検討してみてください。