ゴミ収集車

不用品回収業者にとって最も判断が難しいのが、有価物と廃棄物の区別ではないでしょうか。例えば工場から出た産業廃棄物をお金をもらって回収すれば、一般的にはどう考えても廃棄物として判断されます。

もちろんこの廃棄物を受け取って何かしらの処理をしようとすれば、産業廃棄物処理をしているということになります。このとき、廃棄物を回収した業者と廃棄物を処理した業者には、それぞれ産業廃棄物収集運搬業許可と産業廃棄物処理業許可が必要です。

しかし「必ずしもそうとは言えない」とする通知が存在します。それが平成25年に出された「『規制改革・民間開放推進3か年計画』(平成16年3月19日閣議決定)」において平成16年度中に講ずることとされた措置(廃棄物処理法の適用関係)について(通知) 」、通称「手元マイナス通知」です。ここではこの通知について詳しく解説します。

INDEX
  1. 「手元マイナス」は廃棄物か?有価物か?
    1. 「手元マイナス」=お金と物が出て行く取引
    2. 「手元マイナス」についての4つの解釈
    3. 「手元マイナス通知」はこう考える
  2. 平成17年版「手元マイナス通知」は境界線をどう引いたか?
    1. 平成17年版「手元マイナス通知」の考え方
    2. 平成25年版「手元マイナス通知」が出された背景
    3. 平成17年版から平成25年版への変化は「規制緩和」
  3. 法的な判断基準を知って、迷いない事業展開を

「手元マイナス」は廃棄物か?有価物か?

「手元マイナス」=お金と物が出て行く取引

「手元マイナス通知」の「手元マイナス」を理解するために、まず以下の例を見ておきましょう。

ある材木工場で大量の木くずが出ていたとします。この木くずは事業活動を通じて発生したものなので、立派な産業廃棄物です。しかしある家具メーカーがこの木くずに目をつけ、「当社は木くずを圧縮して部材を作り、それを家具にして販売しています。貴社の木くずを当社工場に持ち込んでいただければ1kgあたり10円で買い取りましょう」と申し出てきました。

材木工場は木くずの処分に1kgあたり50円かかっていたこともあり、この申し出を受けることにします。そこで友人の不用品回収業者に頼んで、この木くずを1kgあたり30円で収集運搬してもらうよう頼みました。30円で運んでもらって10円で買い取られるので、手元で20円のマイナスが発生していますが、これまでの1kgあたり50円よりは安く済むので、材木工場の工場長も満足しています。

この例のうち、材木工場における「手元で20円のマイナス」が発生している状態、これが手元マイナスです。

「手元マイナス」についての4つの解釈

問題はこの手元マイナスになったとき、木くずが産業廃棄物になるのか、あるいは有価物になるのかです。考えられる解釈は4つあります。

1つ目は「手元で20円のマイナス」が発生しているということは、20円を支払って収集運搬および処理をしてもらっているのと同じなのだから木くずは廃棄物であるという解釈です。この場合不用品回収業者には産業廃棄物収集運搬業許可が必要ですし、家具メーカーには産業廃棄物処理業許可が必要です。

木材チップ

これに対して2つ目から4つ目の解釈は、木くずの位置付けが材木工場・不用品回収業者・家具メーカーそれぞれの段階で変わるのだという考え方をします。

すなわち2つ目は、木くずは産業廃棄物として発生したのだから、不用品回収業者が収集運搬したときも木くずは産業廃棄物だし、家具メーカーが引き取って加工したときも木くずは産業廃棄物だという解釈です。この場合不用品回収業者には産業廃棄物収集運搬業許可が必要ですし、家具メーカーには産業廃棄物処理業許可が必要になります。

3つ目は、木くずは産業廃棄物として発生したのだから、不用品回収業者が収集運搬したときは産業廃棄物だが、家具メーカーにしてみれば有償で買い取っているのでこのときの木くずは有価物だという解釈です。この場合不用品回収業者には産業廃棄物収集運搬業許可が必要ですが、家具メーカーはいわば原料を仕入れただけなので許可は必要ありません。

4つ目は、木くずは産業廃棄物として発生したものの、不用品回収業者に運搬してもらって家具メーカーが買い取ることで焼却処理するよりも経済的なコストを削減しているほか、環境的な視点からもメリットが大きいため、不用品回収業者が収集運搬したときも家具メーカーが買い取ったあとも有価物とみなされるという解釈です。この場合不用品回収業者、家具メーカーともに許可は必要なくなります。

解釈 主体 廃棄物/有価物 必要な許可
1つ目 材木工場 産業廃棄物
不用品回収業者 産業廃棄物 収集運搬業許可
家具メーカー 産業廃棄物 処理業許可
2つ目 材木工場 産業廃棄物
不用品回収業者 産業廃棄物 収集運搬業許可
家具メーカー 産業廃棄物 処理業許可
3つ目 材木工場 産業廃棄物
不用品回収業者 産業廃棄物 収集運搬業許可
家具メーカー 有価物 不要
4つ目 材木工場 産業廃棄物
不用品回収業者 有価物 不要
家具メーカー 有価物 不要

「手元マイナス通知」はこう考える

このうち手元マイナス通知は、3つ目もしくは4つ目の解釈をします。つまり「引取先の企業が買い取った時点では完全に有価物、回収業者が収集運搬するときも場合によっては有価物ということにする」と考えるわけです。手元マイナス通知のこの考え方を図にすると以下のようになります。

手元マイナスの考え方

総合判断説とは廃棄物か有価物かを「その物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「占有者の意思」の5つの要素で総合的に判断するという、司法の立場です(くわしくはこちら)。この総合判断説で考えた場合に、回収業者が収集運搬する物が有価物だと判断されれば、産業廃棄物収集運搬業許可は不要だということになるのです。

逆に言えばここで産業廃棄物だと判断されれば、先ほどの例の不用品回収業者は無許可営業だと見なされてしまうわけです。総合判断説でどう判断されるか、それが「許可不要」と「無許可営業」の境界線なのです。

手元マイナス通知に関しては、この点だけを理解していれば大きな問題はありません。ただし手元マイナス通知が現在の形に落ち着くまでの経緯を知っておくと、この通知への理解がより深まり、いろいろな場面で応用が効くようになります。そこで以下では「平成17年に出された手元マイナス通知」について解説しておきます。

平成17年版「手元マイナス通知」は境界線をどう引いたか?

平成17年版「手元マイナス通知」の考え方

手元マイナスについて考える

平成17年に出された手元マイナス通知も、平成25年のものと全く同じ「『規制改革・民間開放推進3か年計画』(平成16年3月19日閣議決定)」において平成16年度中に講ずることとされた措置(廃棄物処理法の適用関係)について(通知) 」という正式名称で出されています。ややこしくなるのを避けるため、以下では平成17年版・平成25年版と表記することにします。

さて平成17年版では廃棄物と有価物の境界線をどのように引いたのでしょうか。先ほどの木くずの例でいうと、ちょうど3つ目の解釈が平成17年版の考え方になります。すなわち木くずは産業廃棄物として発生したのだから、不用品回収業者が収集運搬したときは産業廃棄物であり、原料として仕入れているのだから家具メーカーが木くずを買い取った時点で有価物になる、という解釈です。

木くずを引き取ったあとの部分は平成25年版と同じですが、それまでの部分に総合判断説を使わないという点が平成25年版との違いです。したがってたとえリサイクルができる物であっても、収集運搬をする業者には産業廃棄物処理業許可が求められました。

平成25年版「手元マイナス通知」が出された背景

そもそも平成17年版の手元マイナス通知は、従来の「取引のトータルがマイナス(手元マイナス)=社会にとっての損失」という考え方ではなく、「手元マイナスでもリサイクルした方が社会的価値があり、焼却・埋め立てよりもコストダウンになるのであれば経済的価値もある」という考え方が必要だったからこそ出された通知です。ではなぜ平成17年版から平成25年版でこのような変更が必要だったのでしょうか。

震災で廃墟となった施設

最も大きな原因となったのは、平成23年3月11日の東日本大震災です。原子力発電所のメルトダウンによって電力問題があからさまになった際、注目されたのは「バイオマス発電」でした。この発電方式の動力源になるのは間伐材や生ごみ、家畜糞尿などを加熱して発生するガスです。

電力供給を引き上げるためにはこうした廃棄物が大量に必要なわけですが、平成17年版の手元マイナス通知では収集運搬するのに許可を取得しなければなりません。これではバイオマス発電の推進が難しいだろうということで、平成25年版の手元マイナス通知で総合判断説を持ち込んだのです。そのため平成25年版で追記された通知の「第四 『廃棄物』か否か判断する際の輸送費の取扱等の明確化」という項目では、エネルギー関連の単語がたくさん盛り込まれています。

平成17年版から平成25年版への変化は「規制緩和」

総合判断説が持ち込まれたことで、確かに手元マイナス通知の解釈はややこしくなりました。しかし産業廃棄物収集運搬業許可を持たない不用品回収業者にとってみれば、これはビジネスチャンスの拡大と考えられます。なぜなら産業廃棄物の排出事業者とそれを有効活用する事業者との間に入って、収集運搬できる可能性が生まれたということだからです。

手元マイナス通知の内容をきちんと理解しているかどうかは、この規制緩和をどれだけ有効活用できるかどうかにつながっているといえるでしょう。

法的な判断基準を知って、迷いない事業展開を

法的な判断基準を理解していれば、「自分はうしろめたいことをしていない」という自信を持って事業に臨めますし、場合によっては前述のように事業拡大のチャンスを掴むこともできます。廃棄物処理法や通知といった環境関連の法律は、非常にややこしいものも少なくありませんが、時間をとってしっかりと勉強しておきましょう。