トラックとドライバー

引越し業者やトラック運送業者など「運送事業」を営む業者は、ほとんどがそれぞれの事業内容に応じた「運送事業」の許可の取得や届出の提出を済ませています。これらを行わずに運送事業を営んだ場合、許可なし・届出なしの営業とみなされてしまいます。

これは一見不用品回収業者には関係のない話のように思えますが、実は不用品回収業と運送事業にはきちんと知っておくべき関係性があるのです。ここではなぜ不用品回収業と運送事業に関係があるのかを明らかにしたうえで、運送事業の種類や、不用品回収業者に関係のある許可や届出、それらの取得または提出方法などについて解説します。

INDEX
  1. なぜ不用品回収業者に「運送事業」の許可・届出が必要なのか?
  2. 「不用品回収業」はどの運送事業に当てはまる?
    1. 貨物運送事業
    2. 貨物利用運送事業
    3. 旅客自動車運送事業
    4. 当てはまるのは「一般貨物自動車運送事業」と「貨物軽自動車運送事業」
  3. 「一般貨物自動車運送事業」か?「貨物軽自動車運送事業」か?
    1. 一般貨物自動車運送事業の許可を取るのは大変
    2. 貨物軽自動車運送事業の届出方法
  4. 運賃を受け取るのなら「貨物軽自動車運送事業の届出」を済ませよう

なぜ不用品回収業者に「運送事業」の許可・届出が必要なのか?

不用品回収業者として営業するためには、回収する品物をリユース品として買い取るための「古物営業許可」の取得が必須となりますが、この許可はあくまでリユース品を買い取るためのものです。

古物営業許可だけで「買い取ったリユース品を運搬するための運賃」を受け取ることはできません。なぜなら「運賃をもらうビジネス=運送事業」であり、各種運送事業の許可や届出が必要な形で「運賃」を受け取ってしまうと、その時点で許可なし・届出なしの営業になってしまうからです。

しかし逆に言えば、これは各種運送事業の許可や届出さえ取得もしくは提出していれば、買い取ったリユース品を自社倉庫まで運搬するための運賃を受け取れるようになるということです。

回収時に手数料などを徴収されるとなると「買取なのにお金を支払うのか?」と疑問に思う依頼者は少なくありません。しかしそこで「運賃がかかるので」とはっきり伝えられれば依頼者も納得しやすくなりますし、不用品回収業者自身も迷いがなくなるので仕事がしやすくなります。

だからこそ不用品回収業者も運送事業のルールを理解し、状況に応じた許可の取得、届出の提出が必要になるのです。

「不用品回収業」はどの運送事業に当てはまる?

「運送事業」と一言で言っても大きく分けて3種類、細かく分けると9種類も存在します。以下ではこれらについて1つずつ紹介していきましょう。

貨物運送事業

貨物運送事業は文字通り貨物を運送する事業を指します。ルールは貨物自動車運送事業法で定められています。

一般貨物自動車運送事業

いわゆる「トラック運送業」「運送業」もしくは「運送会社」などと呼ばれるのが、一般貨物自動車運送事業の事業者です。荷主の依頼を受けて荷物を移動させ、運賃を受け取る事業を指します。引越し業者や霊柩車を使う葬儀社なども一般貨物自動車運送事業に含まれます。

特定貨物自動車運送事業

基本的には一般貨物自動車運送事業と同じです。しかし依頼を受ける荷主に制限が設けられていない一般貨物自動車運送事業と違い、特定貨物自動車運送事業では荷主は1社だけに限られています。仮に複数の荷主との取引をする場合は、一般貨物自動車運送事業に分類されます。メーカーや商社などの物流を支える子会社などが、特定貨物自動車運送事業を行っている場合があります。

貨物軽自動車運送事業

基本的には一般貨物自動車運送事業と同じですが、運送事業に使える車両が軽トラックに限られているというのが貨物軽自動車運送事業の特徴です。

貨物利用運送事業

貨物運送

貨物利用運送事業とは、荷主の依頼に応じて、船・飛行機・鉄道・貨物自動車などを使って運送業を行っている事業者を利用して荷物を移動させ、運賃を受け取る事業を指します。つまり自分では運ばず、他の運送事業者を利用して収益を得る運送事業です。ルールは貨物利用運送事業法で定められています。

第一種貨物利用運送事業

第一種貨物利用運送事業は集荷から配達までのプロセスのうち、一部だけを担う貨物利用運送事業です。例えばアメリカのカリフォルニア州でトラックを使って集荷し、飛行機を使って日本まで輸送、そこから船で中国の上海まで輸送したあと、トラックで北京まで配達したとします。

第一種貨物利用運送事業はこのうち、「集荷から空港(アメリカ)までのトラック輸送」「空港(アメリカ)から空港(日本)までの飛行機輸送」「日本から上海までの船舶輸送」「上海から北京までのトラック輸送」のいずれかを担当する貨物利用運送事業を指します。

第二種貨物利用運送事業

第二種貨物利用運送事業は集荷から配達までのプロセスのうち、その全てを担う貨物利用運送事業です。先ほどの例で言えばアメリカのカリフォルニア州での集荷から、北京への配達までの貨物利用運送サービスを一手に引き受ける事業を指します。いわば「DOOR to DOOR」のサービスを提供するのが第二種貨物利用運送事業です。

旅客自動車運送事業

旅客自動車

一般乗合旅客自動車運送事業

一般乗合旅客自動車運送事業は都市内を運行する路線バス、高速道路を使って都市間を運行する都市間高速バスなどを指します。運行時間と運行経路が決まっており、かつ不特定多数の人を乗せて行う旅客自動車運送事業です。

一般貸切旅客自動車運送事業

一般貸切旅客自動車運送事業は、ツアーバスなどのように特定の団体等と運送の契約を結んで、車両を貸し切って人を運送する旅客自動車運送事業を指します。

一般乗用旅客自動車運送事業

基本的には一般貸切旅客自動車運送事業と同じ事業形態ですが、一般乗用旅客自動車運送事業では乗車定員が「10人以下」と定められています。ハイヤーやタクシーなどは一般乗用旅客自動車運送事業に分類されます。

特定旅客自動車運送事業

特定旅客自動車運送事業は、特定の依頼者の需要に応じて一定範囲の人を運送します。例えば会社や学校、旅館等と契約し、従業員や学生、宿泊客を対象として運送を行う通勤バスや通学バス、送迎バスなどが該当します。

当てはまるのは「一般貨物自動車運送事業」と「貨物軽自動車運送事業」

9種類の運送事業のうち、不用品回収業者が当てはまるのは貨物運送事業のうち「一般貨物自動車運送事業」と「貨物軽自動車運送事業」の2種類です。一見すると荷物を運ぶ車両の制限がない一般貨物自動車運送事業の方が便利なように思えますが、実際のところはどうなのでしょうか。

以下では両者を比較しながら、不用品回収業者にとって最も適した選択肢を考えていきましょう。

「一般貨物自動車運送事業」か?「貨物軽自動車運送事業」か?

まずは2種類の運送事業の違いを整理しておきましょう。第一に一般貨物自動車運送事業は、事業に使う車両にこれといった制限がなく、ウイング車や冷凍冷蔵車、平ボディ車やタンクローリーなどでも使えます。一方で貨物軽自動車運送事業は軽トラックしか使えません。不用品回収業だけでなく、それこそ運送業や引越し業なども営めます。「たくさんのものを運ぶ」という観点からすれば、一般貨物自動車運送事業の方が優れていると言えます。

第二に一般貨物自動車運送事業は、営業するために許可を取得する必要があります。これに対して貨物軽自動車運送事業は届出を出すだけで営業をスタートさせられます

第一の違いも大きいですが、それよりも第二の違いの方が大きいと言えるでしょう。なぜなら貨物軽自動車運送事業の届出を出すことに比べて、一般貨物自動車運送事業の許可を取得するには手間と時間とお金がかかるからです。以下で簡単に手続きを確認しておきましょう。

一般貨物自動車運送事業の許可を取るのは大変

たくさんの書類

まずは許可の基準を確認したうえで、事業計画を作成します。次に営業所の所在地の管轄に当たる運輸支局へ申請書を提出したら、常勤役員のうち1名の合格が必須となる役員法令試験をクリアしてようやく、運輸局での書類審査に入ります。しかしこの審査には標準で3〜4ヶ月かかるとされています。

これをクリアしたら一般貨物自動車運送事業の許可が出ますが、その際には登録免許税として12万円が必要になります。また、営業を開始するにはさらに運行管理者と整備管理者の選任届を提出し、事業を開始する準備が整ったことを報告する「運輸開始前の確認について」という書類を提出します。そこからさらに車両の登録、運賃料金設定届出の提出をして、やっと営業開始です。

営業開始は許可取得から1年以内に行わなければならず、営業を開始したらしたで運輸開始届出を提出しなければなりません。しかも許可を取得するには最低でも5台の運送車両が必要なので、初期投資にも相当な金額が必要になります。

しかもこれだけの手間と時間とお金がかかるにも関わらず、申請をすれば許可が100%下りるというわけでもありません。以上のことから、荷物の運送そのものがメインの事業ではない不用品回収業者が一般貨物自動車運送事業の許可を取得しようとするのは、コストに対するリスクが高すぎると言えるでしょう。

貨物軽自動車運送事業の届出方法

届出方法

コストとリスクの高い一般貨物自動車運送業の許可の取得に対して、貨物軽自動車運送事業の届出は非常にシンプルです。

代表者の氏名や住所、種別ごとの事業用車両の数などの事業計画を含む「貨物軽自動車運送事業経営届出書」を、「運賃料金設定届出書」とともに管轄の運輸支局に提出。申請内容に不備がなければその場で受理され、「事業用自動車等連絡書」が交付されます。この書類を使って事業用車両の登録を済ませたら、もう営業が開始できます

手続き開始から終了までにかかる時間は、長くても2〜3週間程度。書類の不備さえなければ受理されるので、「準備はしたが意味がなかった」ということにもなりません。コストとリスクを考えると、不用品回収業者にメリットがあるのは貨物軽自動車運送事業の方だと言えます。

運賃を受け取るのなら「貨物軽自動車運送事業の届出」を済ませよう

多くの不用品回収業者は初期投資の低さや狭い路地などでも入っていけるフットワークの軽さなどから、回収者として軽トラックを選びます。そのため、「貨物軽自動車運送事業の届出」を済ませておけば、回収先で運搬のための運賃を受け取れるのです。時間も手間もさほどかからないのであれば、取得しておいて損はありません。

ただし注意したいのは、許可の取得や届出の提出の優先順位です。というのも不用品回収業者には「取得必須の許可」と「取得しておいた方がいい許可・提出しておいたほうがいい届出」があるからです。

取得必須の許可とは古物営業許可です。これがなければ回収品を有価物として買い取れないため、少なくとも合法的には営業できません。この次に優先したいのは、取得しておいた方がいい許可である産業廃棄物収集運搬業許可です。これがあればリサイクルショップなどからの委託で家電を回収できるようになるなど、事業の幅を広げることができます。

貨物軽自動車運送事業の届出の優先順位は、産業廃棄物収集運搬業許可の次です。この優先順位を間違えずに、大切なものから対応していくようにしましょう。