遺品整理業者

高齢化の進行や、マスメディアなどでの特集番組などを通じて、近年話題になっている遺品整理業。すでに不用品回収業を営んでいる人の中には、新規事業としてこの遺品整理業を展開しようと考えている人もいるのではないでしょうか。

しかし実際に遺品整理業を始めるためには、不用品回収業と同様に必要な許可を取得したり、届出を提出したりする必要があります。許可や届出に関しては不用品回収業と重複するものが大半ですが、それでもどのサービスがどの許可・届出と対応しているのかについては、改めて理解しておく必要があるでしょう。

遺品整理業と一口に言っても、細かく見ていくとその中には様々なサービスが含まれています。したがってあるサービスでは必要な許可も、別のサービスでは必要なかったり、別の許可が必要になったりします。そのため以下では、実施するサービス内容に応じて、必要な許可・届出について解説していきます。

INDEX
  1. 一般家庭から出るゴミの回収
  2. リサイクル・リユース品の買取
  3. 運送による料金の受け取り
  4. 特殊清掃
  5. 許可・届出が必要ないサービス
    1. 遺品仕分け
    2. 遺品供養
    3. 権利書・貴重品の探索
    4. 遺品整理後のハウスクリーニング
    5. 遺品整理士について
  6. まとめ

一般家庭から出るゴミの回収

遺品整理の案件では、一軒家の中にあるものを丸ごと買取もしくは処分してほしいと依頼されるケースも少なくありません。そのため家電や家具、衣類や雑貨類などリサイクル・リユース品として対応できる品物も多いものの、同時に一般家庭から出るゴミすなわち一般廃棄物も多い傾向にあります。

したがって一般廃棄物を自社で回収し、処分場まで持ち込むというサービスを提供できれば、そのぶんの回収料金も請求することができます。

このようなサービスを提供する場合には、一般廃棄物収集運搬業許可が必要です。しかし不用品回収業者が「一般廃棄物収集運搬業許可」を取得するには?で詳しく解説している通り、都市部の不用品回収業者がこの許可を取得するのは非常に難しいのが現状です。

地方部などの取得しやすい地域に拠点を置いているのであればぜひとも取得しておきたいところですが、拠点が都市部の場合は自社で一般廃棄物の回収サービスを展開するのは難しいでしょう。

一般廃棄物収集運搬業者

しかし法令を遵守しながら一般廃棄物の回収サービスを提供する方法がないわけではありません。例えば地元の一般廃棄物収集運搬業許可を取得している事業者と提携して、依頼者宅の中で分別・整理した一般廃棄物を玄関先で引き渡せば何ら法に触れることなく依頼者の一般廃棄物を処分できます。

「それなら依頼者が自分でやっているのと変わらないのでは?」と思うかもしれませんが、家族を亡くして精神的・肉体的に疲れている依頼者の中には、遺品整理業者を手配するだけで精一杯という人も少なくありません。

そのような依頼者にとっては、一般廃棄物収集運搬業者の手配を請け負ってもらえるだけでも、負担が軽くなったと感じるはずです。そのため遺品整理業者が一般廃棄物収集運搬業者を手配する価値は十分あるのです。

リサイクル・リユース品の買取

一般廃棄物収集運搬業許可の取得が難しく、処分という形での遺品整理ができないのでれば、残された遺品整理の手段はリサイクル・リユース品としての買取です。また買取サービスには不用品回収業と同じく、家具や家電、衣類や雑貨類を買い取ることで、依頼者側の金銭的負担を軽減するという役割もあります。

遺品

リサイクル・リユース品の買取には、古物商許可が必要になります。古物商を営むにはでも詳しく解説していますが、古物商許可は比較的取得が簡単で申請さえすれば取得できる場合が大半です。自社の利益を確保するためにもあらかじめ取得しておきましょう。

不用品回収業者の場合はすでに古物商許可を取得しているはずなので、遺品整理サービスにおけるリサイクル・リユース品の買取サービスをいつでも始めることができます。しかしその際は、取り扱う品物が単なる不用品ではなく、依頼者の思い出や思い入れの詰まった遺品だという点に注意が必要です。くれぐれも雑に扱うことなく、大切な品物だということを意識するようにしましょう。

運送による料金の受け取り

実家の遺品を依頼者が今住んでいる家に運ぶ時や、形見分けのために親族に遺品を配送する時などに、運賃を受け取ってこれらのサービスを行う場合もあります。

もちろん依頼者自ら運送業者を手配してもらうこともできますが、前述したように依頼者にはそうした余裕がないケースも少なくありません。そのような場合に、遺品整理業者が運送業者を手配したり、遺品整理業者自身が運送すれば、依頼者の負担を軽減できます。

またすでに依頼者と遺品整理業者の間で信頼関係が築けているような場合は、遺品整理業者自身が運送してくれた方が依頼者にとっても安心でしょう。

積み込みのために依頼者宅を訪れるトラック

ただし運送による料金を受け取る場合は、一般貨物自動車運送事業許可もしくは貨物軽自動車運送事業の届出が必要になります。遺品整理をメイン事業としている業者の中には一般貨物自動車運送事業許可を取得しているところもありますが、この許可を取得するためには手間と時間、そして一定の設備投資が必要になります。

そのためあくまで不用品回収のサブ事業として遺品整理を行う場合は、軽自動車による運送事業が行えるようになる貨物軽自動車運送事業の届出を出すようにしましょう。

運送事業や貨物軽自動車運送事業の届出の方法などについては不用品回収業者が知っておくべき「運送事業」のルールとは?で解説しているので、詳しくはこちらを参照してください。

特殊清掃

平成29年版高齢社会白書によれば、東京都23区内における一人暮らしの高齢者が自宅で死亡したケースは年々増えており、独立行政法人都市再生機構が運営管理する賃貸住宅約74万戸において、一人暮らし世帯で死亡から1週間以上経ってから発見された人の数は毎年一定数存在し、高齢者に限れば毎年130件前後で推移しています。

リフォーム作業をする男性

このような状況を考えると、遺品を整理する前にご遺体のあった場所などの消毒や簡単なリフォームが必要なケースも発生する可能性があります。こうした作業は特殊清掃と呼ばれ、専門の業者もありますが、遺品整理のサービスの一環として行なっている業者も少なくありません。

例えば特殊清掃のために壁紙や畳・床材の張り替えなどを行うには、内装仕上工事業の許可の取得が必要になります。他にも施工内容によっては解体工事業や土木工事業などの建築系の許可が必要になる場合もあります。

どの許可を取得するにせよ、法で定められた不適格要件に該当しないだけでなく、一定の資格を持った技術管理者が在籍していなければなりません。そのため不用品回収業者にとって取得のハードルは高いと言えます。

ただしこれには例外があり、費用が500万円までの工事に関しては許可を取得する必要はないとされています(ただし解体工事業は別途事業者登録が必要)。そのためよほど大きな規模のリフォーム、もしくは高価な材料を使うリフォームを請け負わなければ、許可なしでもリフォームサービスの提供は可能です。

とはいえ消毒にしろリフォームにしろ、許可が必要ないからと雑な仕事をすれば依頼者の不利益になるばかりか、自社の評判も大きく低下してしまいます。そのため特殊清掃サービスを始めるのでれば、許可を取得できるレベルの人材や設備を揃えておく方がいいでしょう。それが難しいのであれば、特殊清掃業者と提携して、必要な時に手配するという形にとどめておく方が無難かもしれません。

許可・届出が必要ないサービス

遺品整理業のサービスには、許可・届出が必要ないものもあります。以下では一般的な遺品整理業のサービスから、許可・届出がなくても法律上問題ないサービスを紹介しておきます。

遺品仕分け

ダンボール

遺品を手元に残すもの、依頼者の親族に形見分けで配送するもの、リユース・リサイクル品として買い取るもの、もしくは廃棄物としての対応が必要なものといったように整理・分類するサービスです。遺品は単なる不用品とは違い、故人や依頼者の思い出や思い入れが詰まった品物です。そのため依頼者の意向を汲み取りながら、丁寧かつ迅速に作業を進める必要があります。

とはいえこの遺品仕分けサービスは、依頼者宅の中で品物を整理・分類するだけですから、特別に許可を取得したり、届出を出す必要はありません

遺品供養

遺品によっては「もう使えないうえに、貰い手もないが、かといってそのまま処分に出すのは気が引ける」という品物もあります。そのような場合に、事業者が提携する寺院などに依頼し、遺品を供養してもらうというサービスを行なっているところもあります。他の依頼者の遺品と合同で供養をする合同供養のほか、僧侶に読経や訪問を依頼するという事業者もあります。

供養では遺品のお焚き上げ、すなわち焼却を行います。供養に出される遺品は、いわば廃棄物です。そのためこのお焚き上げは、廃棄物の処理と考えることもできます。

もしそうであれば供養を依頼する提携寺院は一般廃棄物処理業許可の取得が必要ですし、事業者が遺品を依頼者宅から自社倉庫に一時保管したり、寺院まで運搬したりするためには、一般廃棄物収集運搬業許可が必要になります。

しかしこのサービスを提供するにあたって、僧侶に依頼するための許可や届け出は必要ありません。というのも廃棄物処理法第16条は許可を取得していない者の廃棄物の焼却を禁止する一方で「公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却」に関しては例外として認めているからです。

遺品の供養はまさに社会の慣習の一つですから、この場合の遺品は廃棄物ではないと考えられるというわけです。そのため寺院が一般廃棄物処理業許可を取得する必要もなく、それを運搬する事業者が一般廃棄物収集運搬業許可を取得する必要もないのです。

権利書・貴重品の探索

遺品整理の依頼では種々雑多な遺品の中に土地や家屋の権利書、年金手帳や通帳・印鑑、その他の貴重品が紛れているケースも少なくありません。そのような場合は依頼者から探索を頼まれることもあります。もちろん特別依頼者から頼まれない場合もありますが、そのような場合でものちのちのトラブルを避けるために、権利書・貴重品類が紛れていないか注意をして作業を進めるのが無難でしょう。

この権利書・貴重品の探索というサービスに関しては、頼まれて家の中を探索するだけですから、特別な許可の取得や届け出の提出は不要です。

遺品整理後のハウスクリーニング

レンジフードの掃除をする男性

病院や老人ホームで生活していたために、遺品整理をする家が長らく使われておらず、埃や汚れが溜まっているようなケースも多々あります。

取り壊すのであればそのままでも問題はありませんが、のちのち親族が住む予定があったり、賃貸住宅として誰かに引き渡す予定があったりするのであれば、家全体の掃除が必要になります。このようなニーズに応えるために、遺品整理後のハウスクリーニングサービスを提供する事業者もあります。

特殊清掃のところで見たように、この際費用が500万円以上のリフォームなどが必要な場合は、それに見合った許可の取得が必要になります。

しかし単に雑巾や掃除機、高圧洗浄機などを使ってハウスクリーニングをするだけであれば、特別な許可や届け出は必要ありません。そのため依頼者からのニーズがあって、かつハウスクリーニングの技術があるのであれば、すぐに自社のサービスとして提供することが可能です。

遺品整理士について

遺品整理業の一連のサービスに許可・届出が必要ないものがあると知って「遺品整理業を営むには『遺品整理士』の資格が必要なのでは?」と思う人もいるかもしれません。確かに遺品整理士の資格を取得すると、遺品整理業者として次のようなメリットを得ることはできます。

・遺品整理の基本を理解できる
・遺品整理士認定協会のサービスが利用できる
・他の業者と情報を交換できる
・業界の体質改善に貢献できる

しかし遺品整理士の資格は、もともと北海道に拠点を置く一般社団法人遺品整理士認定協会が業界健全化のためにスタートさせた民間資格で、法的拘束力は一切持っていません。そのためこの資格がなければ遺品整理業を営めないということはないのです。

ただし、上記の4つのメリットから資格を取得する価値は十分にあります。詳しくは「遺品整理士資格」とは?不用品回収業者が取得すると何ができる?で解説しているので、この資格について理解を深めたいという場合はこちらを参照してください。

まとめ

ここまで見てきたように、不用品回収業をすでに法律に則って営んでいるのであれば、遺品整理業を始める際に新しく取得・提出が必要になる許可・届出は特にありません。強いて挙げるとすれば特殊清掃サービスに関連する許可ですが、これも500万円の範囲内であれば問題にはなりません。

ただし遺品整理業の場合、不用品回収業よりも一般廃棄物の取扱量が多くなる傾向にあります。そのため有価物と廃棄物の判断や委託業者の選別など、廃棄物処理法の運用にはより慎重さが求められると言えそうです。