AI

2012年に設立され、2018年には日本でのサービスをスタートさせた真贋鑑定AI「エントルピー」。この日本版とも言える「目利きAIアプリ」のベータ版が2018年5月にリリースされることが決まりました。

ここでは現在わかっている目利きAIアプリの機能や開発チームについて紹介するとともに、エントルピーの比較からどのようなところに魅力があるのかを解説します。

INDEX
  1. 日本製「目利きAIアプリ」のβ版が5月にリリース決定
    1. 鑑定・査定が「写真を撮るだけ」で完了
    2. ものばんくとチームAIBOD
    3. まずはプロ向け、目指すはエンドユーザー
  2. 真贋鑑定AI「エントルピー」VS「目利きAIアプリ」
    1. 「鑑定」に関してはエントルピーに軍配が上がる
    2. 「実用性」でみれば目利きAIアプリは期待大
    3. もう「人の目」は必要ないのか?
  3. 今後も「目利きAIアプリ」の開発は要チェック!

日本製「目利きAIアプリ」のβ版が5月にリリース決定

鑑定・査定が「写真を撮るだけ」で完了

リサイクルショップや質店が顧客からの持ち込みの品を買い取るとなると、ブランドバッグやブランド時計などの場合はまず「本物かどうか」の鑑定を行い、そのあとでその品物が相場としてどれくらいで売りに出せるのかを査定し、そこから自店の利益などを差し引いた金額を提示します。

迅速かつ正確に鑑定と査定を行うためには本物と偽物についての知識だけでなく、経験の積み重ねが必要不可欠です。相場に関しては生き物のようなものなので、絶えず相場観を磨く努力も必要です。結果、知識と経験の少ない人が鑑定や査定を行うと、どうしても時間がかかってしまいます。

スマホで撮影

こうした問題を解決する機能を備えているのが目利きAIアプリです。目利きAIアプリでの査定はたったのワンステップ。スマホで商品の画像を1枚撮るだけです。これで画像の輪郭や色彩、柄等の要素をもとにしてブランド名、型番、モデル名等を瞬時に特定、査定価格の表示まで行ってくれるのです。

開発チームによればブランドバッグにおける精度は95%以上。今後は精度のさらなる向上と真贋判定の機能の実装のほか、時計やジュエリーなど他のカテゴリーも追加していくことで、より汎用性を高めていく予定なのだそうです。

また中古品の査定においては「状態査定」も非常に重要な要素です。キズやヨゴレ、経年劣化などがあればそれだけ売値は下がり、買取価格も下げる必要があるからです。「どんなヨゴレがあれば、どれくらいの値段になるのか」という判断は、査定の一番難しい部分ともいえます。目利きAIアプリはこの状態査定についても開発を進めていく予定で、成功すれば非常に実用的なサービスになると考えられます。

ものばんくとチームAIBOD

目利きAIアプリの開発を行なっているのは、山口県下関市に拠点を置くリサイクル企業「ものばんく」と、国立大学法人九州大学および九州先端科学技術研究所発のベンチャー企業「チームAIBOD」です。

ものばんく

ものばんくはもともと昭和40年創立の老舗質店で、西日本最大級のブランド品業者間オークション「下関交換会」の運営企業でもあります。業者向けのサービスを提供するmonobank auctionでは、以下のような会員向けの情報提供・教育などを行なっています。

ポータルサイト「モノグラフ」

年間数十万点の業者間取引実績をもとにした時計や家電、バッグなどの相場を、型番やモデル、取引日などに応じてデータ化。

ウェブマガジン「いちばから」

同業・他業種の会社や社長インタビュー、相場動向、コピー品情報などを発信。

質屋学校

ものばんくが大量の取引と経験から構築した査定ノウハウ「monobank メソッド」を指導するセミナー。

システム販売

質店・リサイクル店のための顧客管理ソフト、相場検索ソフト、POSシステムを販売。

卸販売

法人・業者向けの価格で商品を販売。

今回の目利きAIアプリの開発においては、このうちモノグラフから約40万件の有効データを提供しています。

チームAIBOD

チームAIBODは2016年2月に創立されたベンチャー企業で、ビッグデータやAI技術といった先端技術を利活用したコンサルティング、プラットフォーム構築を展開しています。

創業者であり技術顧問を担当する村上和彰氏は京都大学で工学博士号を取得し、九州大学の名誉教授にもなっている、コンピュータシステムの専門家。社員もフランスやブラジル、フィリピンにカナダそして日本と多彩な価値観を持つメンバーで構成されています。

まずはプロ向け、目指すはエンドユーザー

2018年5月にリリースされるアプリのベータ版は、ものばんくの会員企業約900社に対して無償提供をする予定となっています。ベータ版から製品版へと開発が進めば、プロユースのアプリとして鑑定・査定を半自動的に処理できる画期的なツールとなるでしょう。

しかしものばんくの吉田悟社長が見据えているのはプロユース止まりのアプリではありません。というのも「動産をより流動化する」をテーマに、エンドユーザー向けの提供も視野に入れているのだそうです。どのような形になるかは今のところわかりませんが、もし目利きAIアプリがエンドユーザー向けに提供されるようになれば、現在大きな盛り上がりを見せているCtoCの中古品市場がさらに拡大することも考えられるでしょう。

真贋鑑定AI「エントルピー」VS「目利きAIアプリ」

VS

人間の鑑定士はもう要らない?真贋鑑定AI「エントルピー」の日本進出にリユース業界はどう対応するべきか?で紹介した通り、2018年2月に真贋鑑定AI「エントルピー」が日本進出を果たし、国内リユース企業のテスト運用も始まっています。果たしてこのエントルピーと今回日本のチームが開発した目利きAIアプリでは、どちらがどのように優れているのでしょうか。

「鑑定」に関してはエントルピーに軍配が上がる

「鑑定」に関しては真贋鑑定AIの名前を持つエントルピーの方が、現状は優れているといえます。

理由は2つあって、ひとつは2018年3月現在、目利きAIアプリには真贋鑑定の機能が実装されていないという点。もうひとつは目利きAIアプリの査定の精度が現在「95%以上」に収まっている点です。これに対してエントルピーの鑑定の精度は98.5%もあり、しかも偽物を本物と間違えて判断した割合はたったの0.1%に抑えられているのです。

データベースに登録されている情報量も段違いで、サービススタート時点で1000万件以上もの本物と偽物の画像を収集していたエントルピーに対して、目利きAIアプリの基礎になっているのはものばんくが提供するモノグラフの有効データ40万件。目利きAIアプリは鑑定にしろ、査定にしろ、今後さらなるデータ収集と精度向上が必須となるでしょう。

「実用性」でみれば目利きAIアプリは期待大

一方、「実用性」で考えれば目利きAIアプリには非常に期待ができます。冒頭で触れたように、質店やリサイクル店の買取業務では鑑定と査定はセットになっているので、鑑定しかできないエントルピーでは役不足です。

これに対して目利きAIアプリはすでに査定機能が実装済みで、今後鑑定機能と状態査定機能も開発予定となっています。とりわけ状態査定機能については、知識と経験に基づいた相場観が必須となるため、これをAIでサポートできれば現場にとって心強いツールになることは間違いありません。

もう「人の目」は必要ないのか?

状態査定までAIがやってくれるとなると、どうしても浮かんでくるのが「買取ができる人材はもう要らないのか?」という疑問です。もしかするといずれは本当に必要なくなるかもしれません。顧客が店頭の端末に買取を希望する品物をかざせば、瞬時に査定額が提示され、了承ボタンを押すだけで端末からお金が出てきたり、あるいは「メルカリNOW」や「CASH」のような現金化アプリが当たり前のツールになって実店舗での買取業務は不要になったりする可能性もあります。

しかしそのような時代はまだしばらくは来ないと考えることもできます。というのも「状態」という非常に感覚的な判断を高い精度でAIが行えるようになるには、まだ時間がかかると予想されるからです。当分は相場観のある人材が常駐していて、目利きAIアプリの判断にOK・NGを出すという形が続くでしょう。

とはいえこれは「買取ができる人材が要らなくなる日は来ない」という意味でもありません。AIの参入によって業界のあり方が急速に変わっていくのは間違いないでしょう。「買取ができる人材が要らなくなる日」までの間に、自社は何をするべきかを検討しておく必要がありそうです。

今後も「目利きAIアプリ」の開発は要チェック!

2018年5月にリリースされる目利きAIアプリのベータ版がものばんくの会員企業900社に無償提供されれば、製品版に向けたデータ収集は一気に加速します。すでにエントルピーによって実用化されている鑑定機能はもちろん、状態査定機能の開発も進んでいくでしょう。エントルピーよりも実用性の高い目利きAIアプリなだけあって、今後の開発進捗にはしっかりと目を光らせておく必要があるでしょう。